[体験談]飛田新地4

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ラーメンも食ったはずだけどあんまり記憶に残っていない。
ビールはコップ2杯ほど飲んだはず。

「男やねんからちゃんと送っていかなあかんやん」

なんかそんなことを言われた気もするが、ちょっと陽気になったサチコさんに言われるまま、オレたちは再び2ケツしていた。

道中、オレはバイクの話ばかりしてた。当時はバイクブームがレースブームみたいな感じだったので、中型取ったら生駒に走りに行くとか、ツレとレースやりたいとか、何せ16のガキがそんな大人の女の人に気の利いたこと言えやしない。

それでも、サチコさんはにこにこしながらオレの戯言を聞いてくれたはずだ。
はずだってのは、どんな顔して聞いてくれてたかは2ケツなので分からない。

5分か10分ほどでサチコさんのアパートにたどり着いて、どうしてそうなったかはよく思い出せないのだが、何故かオレはサチコさんの部屋に転がり込んでいた。

「泊まるっていうてきたんやったら朝までおりいや」

そんなことを言われた記憶はあるから、親にウソついてきた経緯を知ってたサチコさんにそう言ってもらえたか、オレから泊めてくれって言ったのか。

多分前者だろう、いくら酔ってたとはいえそんな大胆なことを口にできたとも思えない。

サチコさんのアパートは当時にして築何十年だって感じの古いアパートだった。
小さな台所と4畳半の部屋が二間だったかな。

かすかなかび臭さと、女の人の化粧品の匂いが混じり合ってた。

「散らかってるけどかめへんやろ?」

サチコさんはそう言ったが、むしろきれいな部屋だった。

「着替えてくるから、その辺でも座ってテレビでも見ときいな」

そう言うとサチコさんはふすまを閉めて奥の間に消えた。

言われるままに、オレはぺたんと座ってテレビを付ける。

今みたいに深夜まで色々番組がある時代じゃないので、これっていうのが無く、取りあえずやってた天気予報をぼんやり見てた。

しばらくして、サチコさんが戻ってきた。

「タバコ、吸うんやったらこれ使い」

余り使われていないらしいクリスタルの灰皿をサチコさんに差し出されて、オレはサチコさんにしばらく目が奪われた。

白でプリント柄の入った可愛らしいパジャマ姿だった。

「なに?」

オレの視線に軽く赤面したようにも見えるサチコさんが笑った。

「え、あ、いや、なんか可愛くて」

年上の女の人に言うべきほめ言葉じゃないのだが、当時のオレの素直な感想だった。

「なんやの、もう。そんなんいうたって何も出えへんで」
「すいません、あはは」

オレはタバコに火をつけてごまかし笑いをした。

視線に困って何となく部屋の中を見回す。
テレビとは反対側に置かれたタンスの上にある写真立てに目がとまった。

多分、はっきりと写ってないので分からないが、初期型のRZ250だと思う。

それに跨るオレと同じくらいの年の奴、そして今よりもずっと明るく、若々しい印象のサチコさん。

「それ弟とわたし。実家に居るときに撮った写真」

サチコさんの言葉に視線を返す。
なんとも言えない寂しげな笑顔だった。

「RZですやん、すごいなぁ」
「弟も、なんか知らんけど山道とかよう行っとったで。競争みたいなんすんねやろ? 危ないから止めとき、いうても全然聞かへんもんなぁ」

今なら、サチコさんの言葉の裏にある意味を感じ取れたのだろうけど、その時のオレはやっぱガキだったから、そこまで斟酌することなんてできやしなかった。

「今でも、行ってるんですか? 峠とか速いんでしょう?」

オレの無神経な質問に、サチコさんは何故か明るく笑っていた。

「今も行ってるんちゃうかな。めっちゃ走ってるんやろうなぁ」
「えーなー、オレもはよ免許取らな」

無邪気すぎるオレの言葉に、サチコさんの表情がまた寂しげなものに変わっていた。

「免許取るのはええけど、危ないこと、せんときや」

その表情と、真剣な口調にオレはよくわからないままに何かを感じ取り、少し気圧された感じになってしまった。

「……それは、大丈夫ですよ、無茶とかしませんもん」

一瞬口ごもってから、オレがそう言うとサチコさんは指切りげんまんのポーズをしてオレに向けてきた。

「ほなわたしと約束し。指切り……」
「げーんまん、ウソついたら……」

サチコさんに合わせて、オレも指切りのポーズを取ると小指と小指が絡み合った。

「今度遊びに来ても相手せえへんで」
「えっ、マジっすか」

オレが目を丸くするとサチコさんはぷっと吹き出した。

「あはは、ウソウソ。でも、危ないことはほんまにせんときや」

笑いながらそう言うサチコさんの目が、かすかに潤んでいるようにも見えた。

「……なあ。ちょっとぎゅってさして」


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